A02 公募研究:受容体・細胞応答機構
1細胞ホルモン分析による植物環境応答の細胞レベルの解析
研究代表者 | 小柴 共一 | 首都大学東京大学院理工学研究科・教授 |
![]() |
---|---|---|---|
連携研究者 | 升島 努 | 理化学研究所(QBiC)・チームリーダー | 瀬尾 光範 | 理化学研究所(CSRS)・ユニットリーダー |
研究概要
植物ホルモンは、植物の発生や成長・分化はもちろん、様々な環境応答に重要な働きをしている。低分子化合物であるホルモンは合成され移動して作用点で働くものがほとんどである。特に、環境刺激応答に関しては、ホルモンの作用を1細胞レベルまで下げて調べる必要が、必須の段階に至っている。本研究ではすでに動物細胞を中心として、1細胞に含まれる低分子化合物の解析で大きな成果をあげつつある理研(QBiC)・一細胞質量分析研究チームの升島教授の協力のもと、環境刺激応答のうちでも特に早い乾燥刺激に応答した気孔閉鎖機構に注目し、それに深くかかわるホルモンアブシシン酸(ABA)量を1孔辺細胞で正確に定量できる技術を確立することを第一の目的としている。
初年度は、まず材料として比較的大きな孔辺細胞を持つソラマメを用い、孔辺細胞にnano ESI-MS専用の金属キャピラリを挿入し、主に細胞質を吸引後、オービトラップMS/MSで低分子を分析する。ABAは、比較的多く細胞に存在するホルモンであり、特に乾燥に応答して多い時には刺激前の数十倍にも増加することから、気孔の閉鎖に伴う孔辺細胞でのABA量の変動を1細胞で可能にすることを目指している。この技術の確立に成功すれば、乾燥刺激を、植物全体、地上部のみ、根のみに与えた場合などの生理的変化と気孔閉鎖および孔辺細胞内のABA量の経時変化についてデータを得る。
この技術は動物細胞では一定の成果が得られてきているが、植物では細胞壁や細胞内の液胞の存在などによりいくつか大きな問題を抱えており、内部標準の挿入などを含めて確立に向けた取り組みが求められる。これらの問題を解決し、生体内含量の比較的多いABAを対象にこの技術の確立に成功すれば、オーキシンについても1細胞での検出・定量に取り組み、光や重力に応答したオーキシンの局所分布の変化を明らかにするなど、1細胞レベルでの植物環境応答の解析に大きく貢献できると考えている。

図:一細胞植物ホルモン分析実験の概略図